
それをきっかけに、世界が戦争と未知のウイルスが蔓延する惨事が起こっていました。
政府は、この状況を『大災禍(ザ・メイルストロム)』と呼び、窮地を切り抜けようとしますが、あえなく潰え、政府が崩壊してしまいます。
そして、新たな統治機構『生府』が誕生し、そのもとで、高度な医療経済社会が築かれていくのです。
ただしそれは、社会全般のことを考慮された医療が発達した経済社会ではありませんでした。
医療経済社会ということを建前に、世界の人々をデータ化し、公共リソースとして利用していこう、というとんでもない政権だったのです。
人の命・プライバシーをもデータ化して利用してしまうとは、人権無視も良いところで、ある種の宗教団体に似たものかもしれません。
そして、メイルストロムから半世紀が経ちました。
女子高生の霧慧トァンは、生府の掲げる健康・幸福社会を憎悪する御冷ミァハに共感し、行動を起こしていきます。
その行動とは、友人である零下堂キアンを道連れにした、自ら命を捨てる行動だったのです。
途中で生府に気付かれ、行動を妨害されてしまい、ミァハだけが亡くなってしまいます…。
以上が、『ハーモニー』の簡単なストーリーあらすじです。
ある暴動をきっかけに引き起こされた大惨事によって、政府が崩壊してしまう。
これは、ある種、現在の世界各地が混沌と化している状況を物語っているような印象すら伺えます。
これを絶対に許さないと武力や権力でねじ伏せようと考えている者もいれば、対話での解決を求めている者もいます。
ただ、この『ハーモニー』という作品では、現代と異なり、新たに誕生した『生府』という存在があります。
それによって、高度な医療経済社会という建前の下、パーソナルデータを収集し、市民を完全管理してしまう動きになりました。
それに逆らい、自ら命を絶つミァハ。
そして、流されるように、民衆たちの模範となるべく『健康な国民』となってしまったキアンがいます。
さらには、WHO螺旋捜査官として、世界の紛争地帯に身をおくトァンと、三者三様の生き様を見せていく…。
良い悪いは人によって様々な意見があると思いますが、筆者個人としては、決してどの生き様も全て間違っているとは言えないのです。
たしかに、現実の世界でも十分あり得る話だと思えて仕方ありません。
政府の歪んだ思想に絶望し、自ら命を絶つ者もいれば、過激派のように、戦闘地域に身を潜め、革命をもたらそうと動くものもいます。
政府に洗脳され、逆らわず利口に流されるままに生きようとするものも現れるものと筆者は思うのです。
だからこそ、ある種、この作品は現代社会を描いた作品でもあると考えていました。
しかし、問題はここからで、ある日、トァンとキアンが出会うシーンで起こった事件をきっかけに、とてつもない崩落を招いてしまうのです。
それが、一つの未来を暗示させるかのような恐怖すら抱いてしまうのです。
その事件とは、ランチ中に、突如キアンがランチ用のナイフで首を切り裂いてしまいます。
それと同時に、世界中で何千もの人たちが、自ら命を絶ってしまう事件が発生してしまうのです。
何かに絶望して命を絶つことは確かに、悲しい現実ではあるものの、起こり得ない話ではありません。
しかし、キアンの命を捨てる行動を一つの信号として、次々と人の命が失われていくのは非現実的な話で、恐怖映画を見ているような感覚を受けます。
しかも、
生きたければ、自分以外の人を一人命を絶ってください。
そうでなければシステムを操り他の人の命を絶ちます。
という、犯人からの謎の声明まで届けられ、まさに人類破滅のカウントダウンを突きつけらたような状況に、世界が陥ってしまうわけです。
当然、世界は大パニックに陥り、自ら命を捨てる人だって増えてしまいます。
現実世界では、ここまでの惨劇は起こっていませんが、武力で制圧しようとした結果、次々と世界各地で報復とばかりに事件が発生する惨劇が起こっています。
まさに、この映画『ハーモニー』は
『武力では武力を退けられない!』
と、未来を暗示したかのような映画と言えるのでしょう。
『ハーモニー』の結末ネタバレをお話すると、最終的には、トァンが、ミァハが生きていた頃に
「システムをいじれば世界を転覆させられる」
と言っていたことを思い出すのです。
『ミァハが生きているのでは?』
と疑いを持ち始め、裏で動いていたミァハの理想としていた『ハーモニー計画』にたどり着きます。
この『ハーモニー計画』というのは、政府によって管理されることを拒んだミァハが、
人間から意識を奪い、合理的な判断だけで生きていくように仕向けること
で、争いごとを失くさせようと言うものでした。
ただ、それは個性を奪うことに反発していたミァハの意志とは矛盾するものだったのです。
そして、ミァハに向けたトァンの銃口がひかれ、ハーモニー計画は静かに実行に移されていったところで、この『ハーモニー』という作品は幕を閉じます。
復讐から復讐を生むような、まさにどこに向かってもバッドエンドになるような、身の毛がよだつ恐怖の作品・・・。
という印象が、筆者には拭えません。
正直、この『ハーモニー』のストーリーあらすじから結末までを見て、いろんなことを考えさせられた思いです。
湾岸戦争を引き起こした事によってもたらされた、9.11ニューヨーク同時多発事件。
そして、イラク戦争の結果が招いたイスラム国誕生。
フランス同時多発事件を筆頭とした、世界を対象とした数々の事件…。
まさに武力による押さえつけが、ある種の復讐として、さらなる悲劇を生んでいるのは、みなさんも知っているとおりです。
そして、ますます混乱だけが広がります。
一つ間違えば、第三次世界大戦もすぐそこにあるかもしれない危険な状況を生み出そうとしているのが現状です。
もちろん、そんなことが簡単に起こるわけがないと思う気持ちもあります。
しかし、少なからず混沌とした時代に突入していることは、紛れもない事実…。
以前、日本でも原宿で、トルコ人とクルド人が大乱闘を起こした事件も勃発しています。
決して他人事としてみることのできない状況となっているのは、誰の目から見ても明らかだと言えるでしょう。
この『ハーモニー』という作品が、伊藤計劃さんの遺言だとすると、まさに、
ノストラダムスの大予言のごとく、世界滅亡を憂いて
メッセージを残したと考えることも十分できます。
『ハーモニー』では、先程もお話したように、生府が、身勝手な都合により、
世界の人々の命・プライバシーを全てデータ化
して、誰でも共有できるようにしました。
それは、全くプライバシーすらない状況で生きろと言う話でもあります。
自由も何もない状況下で息苦しいだけで、そこで幸せになれるわけがないのは当然の話です。
実際に、霧慧トァン、御冷ミァハ、零下堂キアンの三人は、自ら命を絶とうとします。
そのことがきっかけで、一度バラバラの人生を歩んでいくも、後に生府が崩落するくらい、とんでもない惨事が待ち受けてしまうのです。
こんな悲しみがあって良いのだろうかと思いますが、現実世界でも似たようなことが起こる可能性はあるわけです。
それこそが世界滅亡の危機にあると、伊藤計劃さんが遺言という形の予言を残しているのかもしれません。
何度も言うように、映画『ハーモニー』は、伊藤計劃さんの予言ではありません。
あくまで予言では?と言われているに過ぎないアニメ映画です。
ただ、この作品の中で描かれた世の中なら、いっそのことなくなってしまっても構わないと思う人も、観た人の中にはいるのではないでしょうか。
『ハーモニー』では、霧慧トァン、御冷ミァハ、零下堂キアンの三人が、無に帰することを望んでいたわけです。
同じような人がいても不思議な事ではありませんね。
ただ、彼女らを含め、
「幸せになりたい」