
楽天的な明るいエンディングもないわけではありませんが、記憶に残り続けるのは、悲劇的エンディングが多いのです。
それではフィリップ・K・ディックのおすすめ傑作小説をいくつか挙げてみましょう。
- アンドロイドは電気羊の夢を見るか?(1968年)
- 高い城の男(1962年)
- 火星のタイム・スリップ(1964年)
- 流れよわが涙、と警官は言った(1974年)
- ユービック(1969年)
- 暗闇のスキャナー(1977年)
- 宇宙の眼(1957年)
フィリップKディックのおすすめ傑作小説7選
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
言うまでもなく、フィリップ・K・ディックの代表作であり、もっとも有名な小説でもあります。
最高傑作であるかどうかは、人により評価が異なりますが、よくできた作品であることは間違いありません。
その内容は、バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の主人公は、反乱したアンドロイド(人造人間)を追うことになります。
その追跡劇の過程での『人間とは何か』、『人間とアンドロイドの違いは何か』というものがテーマとなっています。
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高い城の男
この『高い城の男』では、その舞台はアメリカ合衆国です。
ただし、このアメリカは
この世界では、第二次大戦で『枢軸国』が勝利している
アメリカなのです。
この世界でのアメリカは、ナチス・ドイツと大日本帝国によって占領され、分割統治されています。
そのアメリカでは、
「もしも連合国が第2次世界大戦で勝っていたら」
という”IF”の世界を描いた小説が売れていました。
その小説を書いた男がタイトルにある『高い城の男』なのです。
いわば『裏返しの第二次大戦の戦後』ですね。
アメリカ人の吸うタバコのパッケージが日本語だとか、ある日本人の描写が傲慢でありつつ、静かに侮辱を織り交ぜたり、細かい描写も見事です。
この小説は、1963年にSF小説の最高の栄誉といわれる、
ヒューゴー・ガーンズバック賞
を授賞しています。
なお、ヒューゴー・ガーンズバックとは、アメリカSFの始祖的存在の作家で、日本でいえば星新一さんとか今日泊亜蘭さんにあたる人です。
火星のタイム・スリップ
舞台は、未来となる1994年の火星です。
もちろん『未来』とは、この作品が書かれた1964年から見てです。
この火星にいる人々は、皆何かを失ったり挫折したりした人々で、未来には全く明るい思いは抱いていません。
主人公は一種の詐欺師で、過去にタイムスリップして、開発が始まる前の火星の土地を買い占め、大もうけをしようと企みます。
その手段として、統合失調症の少年の特異な能力を使うことを思いつきます。
そしてその企みは成功しました!
しかし・・・
その世界は統合失調症患者の目で見た世界だったのです!
世界のあらゆるものがこちらに敵意を抱き、自分を否定する世界
そんな世界だったのです。
この小説をフィリップ・K・ディックの最高傑作とする人が多いのが特徴でもありますね。
流れよわが涙、と警官は言った
数あるフィリップ・K・ディックの不条理もの小説の代表作です。
この小説、とにかく怖いです。
その怖さも、アクション映画の危機一発といった類の怖さではありません。
背筋になにか冷たいおぞましいものが、じわりじわりと忍び込んでくるという、そんな怖さなのです。
このタイトルもまた内容にぴったりですね。
主人公は売れっ子のタレントで、どこへ行っても大人気、富も名声もなにもかも持っているという、羨ましい存在なのです。
しかし、ある朝目覚めると、まるで記憶にないボロホテルにいるのです。
身分証明書もなくなっているし、彼のことを知っている者は誰一人としていません。
所属するタレント事務所に電話をかけても、
「は?どなた様でしょうか?」
と聞き返される始末。
主人公は自分の存在を取り戻すために行動し始めます。
そして、物語の最後は衝撃的です。
私を見張っているのは私だ…。
ユービック
フィリップ・K・ディック作品では、超能力者が登場することがあります。
この『ユービック』では、その超能力者が主役となっています。
その超能力者とは『不活性者』です。
この不活性者とは、『超能力者の能力を無効化できる者』のことなのです。
主人公は超能力者による産業スパイ対策を仕事としています。
ところがある奇妙な現象が起こり始めたのです。
それは『時間の後戻り』です。
所持していたお金が古くなる、飲もうとした飲み物が腐ってしまうなど、奇現象が続発します。
そのうち、現象は次第に重要な事柄にまで及んで行き、歴史まで変化し始めるのです。
なお、この『ユービック』とは、一種の商品で、ストーリー中にそのコマーシャルが挿入されたりします。
しかしそれを読むと、余計にユービックがなんであるのかが、わからなくなるという、けったいなコマーシャルなのです。
暗闇のスキャナー
映画『スキャナー・ダークリー』の原作です。
どこからともなく供給される薬品『物質D』、通称デスがアメリカ中を支配しています。
この薬品は供給源や原材料も全く不明なのです。
そしてその薬品による落伍者が巷に溢れていました。
捜査官である主人公は、自ら潜入調査を行いますが、そのために実際にその『物質D』を摂取したりもします。
彼は、ある日上司から指示を受けます。
それは
「これからはアークターを張ってくれ」
というものでした。
この『アークター』とは潜入時の主人公の名前だったのです…。
自分で自分を見張る、この行為の無意味さと恐ろしさ、このあたりが見物ですね。
宇宙の眼
ベバトロン(陽子ビーム加速器)を見学していた観客八人が、装置の事故に遭遇する所から始まります。
陽子ビーム加速器が暴走し、60億ボルトの陽子ビームが放射されたのです。
この八人は負傷はしたものの生命に別状なく、普段の生活に復帰しました。
しかし・・・
その復帰した『現実』は、事故前の現実とは文化や宗教の異なる現実だったのです。
この小説は、宗教がモチーフの1つとなっています。
パラレルワールドものではありますが、通常のパラレルワールドものと異なるのは、一旦そのパラレルワールドも抜けても、